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千曲川(ちくまがは)沿岸の民情、風俗、武士道と仏教とがところ/″\に遺した中世の古蹟、信越線の鉄道に伴ふ山上の都会の盛衰、昔の北国街道の栄花(えいぐわ)、今の死駅の零落--およそ信濃路のさま/″\、それらのことは今二人の談話(はなし)に上つた。青白く光る谷底に、遠く流れて行くは千曲川の水。今は胸も痛まず、其程の病苦も感ぜず、身体の上のことは忘れる位に元気づいて居る--しかし彼様(あゝ)いふ喀血が幾回もあれば、其時こそ最早(もう)駄目だといふことを話した。 』どうかすると其様(そん)なことを考へて、先輩の病気を恐しく思ふことも有る。放肆(ほしいまゝ)に笑つたり、嘆息したりして、日あたりの好い草土手のところへ足を投出し乍ら、自分の病気の話なぞを為た。