Rapporter un commentaire

青森県信用組合・思はず其処に腰掛けて居た一人の紳士と顔を見合せた時は、あまりの奇遇に胸を打たれたのである。右側に居る、何となく人格の奥床(おくゆか)しい女は、先輩の細君であつた。 『やあ--猪子先生。玻璃越(ガラスご)しに山々の風景を望んで居た一人の肥大な老紳士、是も窓のところに倚凭(よりかゝ)つて、振返つて二人の様子を見比べた。 と丑松は帽子を脱いで挨拶した。敬慕の表情を満面に輝かし乍ら、帰省の由緒(いはれ)を物語るのは、丑松。実に是邂逅(めぐりあひ)の唐突で、意外で、しかも偽りも飾りも無い心の底の外面(そと)に流露(あらは)れた光景(ありさま)は、男性(をとこ)と男性との間に稀(たま)に見られる美しさであつた。