“ 亭主は風呂敷包を解（ほど）いて、一冊々々書物の表紙を調べた揚句、それを二通りに分けて見た。斯うして書物の包を提げて、成るべく外套の袖で隠すやうにして、軈てぶらりと蓮華寺の門を出た。 』と其を言へば、亭主は直に丑松の顔色を読んで、商人（あきんど）らしく笑つて、軈（やが）て膝を進め乍ら風呂敷包を手前へ引寄せた。丁度其店頭（みせさき）に客の居なかつたのを幸（さいはひ）、ついと丑松は帽子を脱いで入つて、例の風呂敷包を何気なく取出した。丑松は首を振つて、すこしも腹は空かないと言つた。丑松はまた、友達が持つて来て呉れた月給を机の抽匣（ひきだし）の中へ入れて、其内を紙の袋のまゝ袂へも入れた。 ”