Rapporter un commentaire

その間に若林博士はグルリと大卓子をまわって、私の向側の大きな廻転椅子の上に座った。 するとその大蜘蛛の若林博士は、悠々と長い手をさし伸ばして、最前から大卓子の真中に置いたままになっている書類の綴込みのようなものを引寄せて、膝の下でソッと塵(ごみ)を払いながら、小さな咳払いを一つ二つした。前日の記中よりわたくしの省略したのは、遠近種々の地まで送つて来た人名等であつたが、此日の記に至つては、駕籠賃がある。頁を繰る手が空中で長い間止まり、途中で膝の上に下り、気づかぬうちに姿勢まで正し見入っている。